光造形3Dプリンタ入門した

光造形とは

ここ最近安くなった光造形に手をだしてみた。最近安いLCD式光造形は液体のUVレジンをUVライトで固めて立体化する、3Dプリント方式の一つだ。というのも、LCD光造形はUVライト、解像度の高い液晶パネル、レジン容器(バット)、Z軸のリフトで大まかに構成されるため、メカ的にはFDMよりシンプル

自分はFDM式プリンタをすでに持っていたので光造形に手を出したが、3Dプリンタ初めてならFDMから始めたほうが良いだろう。今ならXyzPrinting社、FlashForge社、Creality社など確実性の高い機種が生き残っている

FDM

  • フィラメント(材料)がやすい
  • そこそこの大きさ(機種次第で2,3cm~25cm程度)が作りやすい
  • 耐熱性が低い
  • 最大解像度は0.1mm程度、最低厚みは2~3mm程度
  • プラのゴミくずが出る程度

光造形

  • UVレジン(材料)が高い(2倍程度)
  • 小さく細かいもの(機種次第で1cm以下~12cm程度)が作りやすい
  • 耐候性が低い
  • 最大解像度は0.01mm程度、最低厚みは0.2~0.5mm程度
  • 液体薬品管理、それらの洗浄、フィルタ処理、二次硬化(ポストキュア)、廃液処理が必要

と概ね、光造形は細かく精密な物、スケールモデルや装飾品には使えそうだがそれ以外はなかなか難しい。日用品を作ったり、おもちゃや実用物ならFDMがより向いている。メンテも簡単だ

が、まあ光造形がどんなもんかに興味もあったため購入

 

基本的には

はじめての3Dプリンター!造形準備と後片付けについて - やなか技術士事務所のホームページ

をお手本にして始めてみた。とても参考になりましたありがとうございます。

機種選定

前述のように、主要な造形の仕組みをUVレジン液とその硬化に頼っているため、わかりやすい性能/価格差は主に液晶パネルの解像度/サイズに出てくる。一昔前の家庭用光造形は、Z軸リフトの精度が出にくい、Z軸リフトが液晶を割ってしまう/設計不良、UV光源にムラがあり造形が均一でない、等など問題点があったようだが、今ではあまり聞かない

ざっと見てみると2Kモノクロ液晶機(造形サイズ12x8cm)が2~3万円台、4Kモノクロ液晶機(造形サイズ(造形サイズ18x12cm)が6万~という感じのようだった。Amazonを見ると、更に小さいFHDパネルやHDパネルのものもあるようだが、そこまでコストを下げる理由はない。逆に4K機はその分大量のレジン液を扱う必要が出てくるため、運用コストについては大は小を兼ねないだろう。

ということで、今回は2KモノクロのAnycubic Photon Monoを選択した。Elegoo Marsもほぼ同タイプの対抗機のようなのでそっちでも良かったかもしれない。あと、Amazonで買うと公式通販より高かった(失敗)

f:id:o_mega:20210616012233p:plain

アクセサリを揃える

本体には

が付属した。便利

追加で以下のものを買い足した。ニッパとスクレイパーで事足りるFDMとは大違い

水洗いレジンは光造形を試すきっかけになったレジンだ。水洗い以前は、アルコール洗浄が必要になり、IPAを家庭で使う必要があった。毒性も爆発性も揮発性もあるを家にドンドコ追加し、じゃぶじゃぶするのは気が引けるわけで、水洗いはそういう意味で革新的だ。

とはいえ水洗いできるようになっても、レジンアレルギーなどは警戒したい。そのため手袋を追加し、適時使い捨てるようにする

スクレーパーは使っていくうちに汚れていくが、樹脂ヘラ、金属ヘラともホームセンターやヨドバシで入手可能なようだ。光造形は何かと汚れて固着しがちなので、適時使い捨てて行くのが良さそう

プリセットで試す

本体同梱のキャリブレートマニュアルに従って、ビルドプレートの取り付け、キャリブレーションをする。終わったら、SKレジンをよく撹拌してからバットへ注ぎ、初回テスト出力

f:id:o_mega:20210616013118p:plainf:id:o_mega:20210616013125p:plain

本体付属のUSBメモリにテスト印刷データが入っていたので、そのまま使ったところ、ベッドから剥がしにくい以外は何事もなく成功した。すごい

いや嘘、途中でレジン液を追加してしまい、初回は失敗した。途中でレジン液を追加するのは、温度変化を招くためにNGらしい。上のは2回目

f:id:o_mega:20210616013521p:plain

造形と洗浄のワークフロー

ということで手持ちのSTLデータとかをあれこれしつつ、いろいろプリントを試す

 

f:id:o_mega:20210616014220p:plain

スライサーでSTLモデルを処理する

ここはFDMと対して変わらない。モデルをツール(うちの場合はPhoton Workshop)へロードして、必要に応じてサポートを追加し、スライス処理をして印刷データを用意する。

造形ベッドに造形物をそのまま固着させる形であればサポートは不要だが、その場合初期層はUV照射時間がことからかなり太ってしまう

それでだいたいの場合はサポートを付けるが、FDMと明確に異なるのがサポートの性質だ。FDMではサポートは上に乗せるフィラメントを最低限支えられればよかったが、光造形の場合はFEPフィルムからベリッと剥がしたときに引っ張りに耐える強度が要る。またサポートが偏った位置にあれば引っ張り時に位置がずれるリスクが高まるため、上下左右にバランスよくサポートを付けたい。オートサポートはあんまり賢くなかったので手付けでやってる

f:id:o_mega:20210616020910p:plain

レジン液をレジンバットに補充/かき混ぜる

レジン液をレジンバットに注ぐ。泡立たないように、レジン液はボトルの段階で優しく振って混ぜておく。すでにレジンバットに注いである場合は、樹脂ヘラでかき混ぜた方が良いかもしれない。使ってるSK水洗いレジンの場合、一日放置しただけでも色ムラができているのが分かる

レジン液は造形に十分な量あるのが望ましいようで、少なくなるとZ軸リフトが上がったときに造形物に泡が入ってしまう可能性があるようだ。結果的にレジン液は完全に使い切ることが難しい

泡穴が残っても、あとからレジン液を垂らし、UVライトで埋めるという手もあるようだ。ちょっと試した感じでは液体の扱いが難しくキレイに埋めるのは難しそう。パテの方がいいかもしれない

プリント

PhotonMonoプリンタを起動し、USBメモリを刺す。ビルドベッドが取り付けられているのを確認してカバーを掛け、Printメニューからプリントしたいモデルを選んで実行するだけ

f:id:o_mega:20210616014302p:plain
只管プリンタがレジン液にベッドを浸す、上げるを繰り返す。ちゃぷちゃぷするだけなので音は静かだ

一次洗浄とビルドプレートから剥がす

百均タッパー2つに水を張って、洗浄タンクにしておく。それぞれ一次用、二次用と分けた

f:id:o_mega:20210616014324p:plain

手袋をして造形物がくっついたビルドベッドをプリンタから外し、一次用タンクで筆を使いながらじゃぶじゃぶ洗う。レジンはとろみがあり、水洗い可とはいえ結構ぬめりが残る。また造形物だけでなく、ビルドベッド表面にもたっぷり付着した状態になったのを洗うため、プリント毎のレジン消費はそれなりにありそう。そして一次洗浄タンクはかなり汚れる

二次洗浄とサポート除去

サポート除去と二次洗浄、どちらを先にやるか。自分はとりま、サポート除去を先にすることにした。

というのも、サポートを取らないと筆洗いでは細かい所が洗いきれないから。超音波洗浄機を導入すればこの限りではないと思う。

サポートをプラニッパでパキパキと切断して取り除く。ポストキュア前だとレジンがまだ柔らかく折れにくい、白化もないためこの段階が良さそうな気がする。その後、筆で二次タンクでじゃぶじゃぶ洗浄。

f:id:o_mega:20210616014402p:plain

乾燥

サーキュレーターで風を当てて乾燥。現状よくわからないが、水洗いレジンは吸湿性があるらしいのでそうするとちゃんと乾かしたほうがいいのかもしれない

f:id:o_mega:20210616014424p:plain


ポストキュア(二次硬化)

手芸用のUVライトを買ったが高さが足りなかったので、100円均一アイテムでポストキュア箱を作った。タッパーにアルミホイルで遮光&反射で効率up狙い、あみあみ台座は排水溝のメッシュ

裏返しながら4分タイマーをまんべんなくあてて二次硬化させる

f:id:o_mega:20210616014343p:plain

以上でざっくり造形は完成。でよいと思う

メンテナンス

洗浄廃液処理

これもブログを参考に、日光浴/ポストキュアUVライトを当ててからストレーナーで濾して下水へ捨てる。

一次洗浄水は流石にビルドベッド周辺も洗ってるせいかレジンが濃いようで、湯葉みたいなものが多量に取れる。二次洗浄水はぼんやり油膜ぐらい。あとはベッドから剥がす時に割れたサポート片が混ざるぐらい

f:id:o_mega:20210616014438p:plain

どんどん汚れる。底にもレジン片がこびりつく。定期的に捨てるぐらいが良さそう


レジンバット洗浄

レジンバット洗浄は毎回しないといけないか…ぐらいに思っていたがそこまで不要だった。プリント前の撹拌をすれば問題なさそう。造形成功しつづけている限りあまり洗浄は不要という感触

ただ、長期間プリントしないなら、ボトルへ片付けたほうがよいだろう

f:id:o_mega:20210616013754p:plainf:id:o_mega:20210616013616p:plain

一方でプリント失敗した場合は確掃除が必要になる。造形失敗したパーツがFEPフィルムに固着しているので剥がして捨てる必要がある。剥がれ落ちた造形品がレジンに浮いてる可能性もあるだろう。樹脂ヘラでFEPフィルムを丁寧に撫でてゴミを剥がし、ストレーナーを通してレジンからゴミを除去する作業が必要になる。

 失敗だけでガッカリなのに、追加で掃除が必要というかなりの罰ゲームがある

 

f:id:o_mega:20210616013832p:plain

スライサからUSBの書き込みが完了する前にあせってUSBメモリを抜くと、スライスデータが破損するようで、気づかずに出力するとこのようにぶっ壊れ造形をされてしまうことが起きてしまった。レジンも大量消費するし、ベッドは固着して剥がしづらいし、洗浄タンクもバットもクソ汚れる。つらい…

パラメータ調整

正直よくわからんけど、プリセットでうまく行った。

概ねこの光造形で問題になるパラメータは、UVライトの照射時間ぐらいと思われる。SK水洗いレジンについては機種ごとの出力差はあるにしてもモノクロ機で2-3秒と公式が紹介しているのでこれを参考にした。PhotonWorkshopの初期値は2.0秒であり、これだと特に問題なく成形されるものの逆テーパー部がかなり太った。

照射を長くすればよりカッチリ固まるが、周辺部まで余計に固まることから太めになる。またXY平面に広いパーツは内部に応力がたまり割れやすくなる…らしい。逆に照射を短くするとだんだん柔らかくグニャグニャになるものの、周辺部の固まるがなく細く正確な造形になる。ただし、下げすぎるとベッドから造形物が墜落、レジンバッド内のゴミになる可能性が高くなる。

何度か試し、最終的に1.7秒程度に設定した。ただ、現状柔らかいことで反りが出ているような感触もあるので、この辺は詰めていくか、サポート設定の工夫が必要そうだ

硬化後の特性や塗装とか

硬化後のレジンはパリッとした硬さになった。ただ、靭性は低いようであっさり折れたり欠けるので、ガシガシ遊ぶタイプの模型にはキツイかな…。展示する模型にはベストマッチ。ヤスリをかけた感じ切削はしやすい。ラッカー塗料の乗りもいい

f:id:o_mega:20210616014833p:plain

サポートの付け方によるのか、結構歪むことがある。画像だと正方形の穴や後方カバー部が歪んでいる。精度があるのと歪むが両立しているのが不思議な気がするが、液体硬化はだいたいこういうものらしい

f:id:o_mega:20210616015424p:plain

感想

FDMと比べると格段に面倒になる。で得られるのが精度だけ、というのが思ったよりFDMより使い所が難しい。スケール模型を作ったりするにはメチャクチャいいんだけど、他の実用アイテムとかになると置き換えは厳しい感じ、という当初の予想だいたい通り

 

U10mk2デスクトップアーミー版を作る

ということで?日頃お世話になってた火事屋さんのU10mk2アバターを、デスクトップアーミー・バーゼラルドとミキシングして、それらしくしてみた。

U10mk2はアバター、VRChat、通りやすいイメージで言うとゲーム寄りのCG用途に作られているため、当然ながら3Dプリント適正はない。がそれなりにアバターとして使い込んでることでモデル形状はだいたい把握していたこと、フル再現ではなく部分再現とミキシングでやること、としてハードルは低めに。残りはblenderと気合で頑張って手を入れて、ガンガンプリントをして試作確認モデル修正をぐるぐる回して作る(プリントの練習を兼ねる)

blenderには3d print toolboxという公式プラグインがあってたので、多様体化はだいたいこれで解決している。閉じてないポリゴンに豪快に蓋をしてくれる

Photon WorkshopはFDMのスライサーと異なり、ポリゴンが交差している分には問題なかったので、そこの特性は積極的に活用した。一方でノーマルが間違ったポリゴンでは、プレビューでは表示されるがスライス時には消えるような怪しい挙動があったので注意が必要

blenderブーリアンモデファイアで穴あけ等をしたのだけど、どうも交差が複雑だったりすると上手くいかずにポリゴンが消える場面が起きてしまって、かなり手間取った。穴あけにいい方法があれば知りたい

 

ツールやプリント方法に依存しない問題点として、そもそも単純に縮小したものがリアルで実用的な模型になるとは限らないというのがある。U10mk2の足ブレードをそのまま出力すると0.5mm厚が生成されたり、腰の武器リングも1mmぐらいの輪っかが出来たり、パーツ同士の接合が1mmシャフトだったりしてしまう。すると普通に塗装したり組み立てるだけでパーツを破壊しがちだ。サポートから取り外せなかったり、そもそも途中脱落して造形失敗することも起きうる。空中に浮いてるパーツはそもそも造形できない。ので、おもちゃチックにわざと厚みを足したり、目立たないように裏に柱を追加したりの加工をしている。

他に今回の用途に合わせ、ジョイントパーツの接合用穴や、武器のグリップを追加などもする。ディテイルはそもそもノーマルマップで作られたディテイルは、ポリゴンだけが造形される3Dプリントでは作られない。またディテイルが造形できても、0.2mm以下の溝などスケール的に意味がなくなってしまうケースもある。必要に応じて作り直す/彫り込むのが正しいが、今回はスピード重視で楽しそうな所だけ施した

 

今回は顔パーツには手を入れなかったが、アバターによっては目のパーツを空中に浮かせる、目が陥没している、といったモデリングテクニックがしばしばあるため、それらを埋めたり違和感ないように修正したり、はたまたプリントサポートをどうするかといった工夫が必要なると思われる

光造形なら出来そうな気配がしたのでU10mk立体化を試してみた。思った以上に全体に手を入れる必要があった。大変だったが、なかなかいい所まで出来たのはよかった。喜んでもらえた

 

あと、久しぶりに模型塗料を触ったんだけど、クレオスのGXメタリックカラーシリーズが筆塗りでもキレイにギンギラになる、オススメ。一昔前のメタリックより格段に粒子が細かくてキレイ

f:id:o_mega:20210616023453p:plain